医学研究からみる!突発性難聴に有効な治療法とは

突発性難聴の治療
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突発性難聴は早期の治療が重要なため、早い段階から治療効果の高い治療法を選択したいをところですよね。

しかし、実際には突発性難聴に対して確実に効果があるという治療法はまだ見つかっていません。そのため、有効と考えられている治療を中心に主治医と相談しつつ、自分自身でそのほかの治療も組み合わせるべきか後悔のないよう選択していく必要があります。

この記事では、最もスタンダードな治療を中心に、その他の治療法もわかりやすくまとめました。この記事を読んで、主治医の先生とともにご自身にとっての最適な治療を見つけましょう!

妊婦・授乳中の方、糖尿病患者では利用できる薬、治療法が異なります。必ず医師にそのことを伝えましょう
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0.絶対に知っておきたい突発性難聴の治療の3つの基礎知識

治療方法の前に、突発性難聴の治療について知っておくべき3つの基礎知識があります。

0-1.突発性難聴の治療は早ければ早いほど効果が見込める

治療効果が見込めるのは、発症から2週間から1か月までだということが報告されています。1か月を過ぎると、聴力の回復はかなり難しくなってきます。

0-2.後悔のないよう治療を行っていこう!

残念ながら、今の医学では確実に有効だという治療法は発見できていません。治療を終えても完治するのは1/3、改善するのは1/3。残りの1/3の患者さんでは全く改善しないことが報告されています。そのため、できることを一通りやって、後悔のないよう治療を行ってほしいと思います。

0-3.確立した治療法がないからこそ、それぞれの治療法のメリット・デメリットを知っておこう!

確実に有効といえる治療法がないため、どの治療を行っていくのか主治医と相談していく形になります。その際に、どんなメリットがあってどんなデメリットがあるのかを知っておくことは治療の選択の意味でも、自分の健康の意味でも非常に重要です。

1.医学研究から見る、有効な可能性が考えられている治療法

現在発表されている医学研究をもとに考えると、

  • 最初の治療としてステロイドの全身投与
  • 診断後早い段階で高気圧酸素療法を取り入れるか検討

が良いのではないかと考えられます。

その他にも様々な治療法があります。ただ残念なことに、どの治療法でも確実に有効とは言えない現状です。それを踏まえると、患者さんの立場としてそれぞれの治療法のメリット・デメリットをしっかり把握しておくことがやはりとても重要です。

次の項でそれぞれの治療法についてメリットやデメリット、有効性の信頼度など詳しくお話していきたいと思います。

2.突発性難聴の治療の全て!メリット・デメリットの比較

治療法メリット起こり得る副作用有効性の信頼度
ステロイドの全身投与最も世界的にスタンダードな治療法
61%の患者で改善が見られたという報告がある
糖尿病の悪化
肝機能の低下
最も研究が進んでいるものの、有効ではないという報告もあり、確実な治療法ではない
鼓室内ステロイド注入ステロイドの全身投与ができない患者でも利用可能
ステロイド全身投与と組み合わせることで聴力がより改善したという報告がある
鼓膜に空いた穴がふさがらないことがある
単体では全身投与よりも治療成績は良くない
研究報告数は多くないものの、併用による有効性が指摘されている
高気圧酸素療法

大幅な聴力回復が見られたという報告がある

気圧による鼻や耳の外傷
酸素中毒
報告でのサンプル数がまだ少なく、研究方法も一定ではないため、信頼性はまだ高くない
血液循環改善薬メカニズムから効果が考えられている(実際に効果があったという報告はない)頭痛
嘔吐
広く利用されているが、改善したという報告は少ない
ビタミンB12メカニズムから効果が考えられている(実際に効果があったという報告はない)特になし
まれにアレルギー
広く利用されているが、改善したという報告は少ない
抗ウイルス薬メカニズムから効果が考えられている(実際に効果があったという報告はない)特になし改善しなかったという報告が中心
漢方・東洋医学不明(信頼できる研究がない)特になし信頼のおける研究が皆無

2-1.ステロイドの全身投与

点滴や内服でステロイドを投与し、徐々に減らしていく治療法です。難聴の程度、めまいの有無によって投与量はそれぞれ異なります。

効果の信頼性

信頼性の高い医学研究1)2)では、今のところステロイドの経口摂取については有効性が証明されないままの現状ではあります。

しかしながら、有効であったとする研究報告が現状の治療法の中では最も多く、効果良好であったため、ほとんどの医療機関で採用されています。いずれ有効であることが判明するかもしれません。

有効であったとする研究
1980年より2つの医療機関で行われた67人の患者に対するランダム化比較試験での結果、ステロイド治療の患者では61%が改善したのに対し、無治療の患者では32%の改善にとどまった。このため、ステロイドは突発性難聴の治療に有効であると考えられる
引用論文:The efficacy of steroids in the treatment of idiopathic sudden hearing loss. A double-blind clinical study.

メカニズム

ステロイドにより内耳の炎症を抑えることで、内耳の循環動態を改善すると考えられています。

副作用について

突発性難聴に対してステロイドを使う期間は長くないため、重大な副作用はほとんど見られません。

可能性のあるものとして、

  • 高血糖
  • 糖尿病の悪化
  • 肝機能の悪化
  • 体重増加
  • 骨粗鬆症
  • 感染症にかかりやすい

などが挙げられます。しかし、初めにも申し上げた通り、突発性難聴でのステロイドは使用期間が短く、これらの副作用が出ることはほとんどありません。多いのは太文字の2つです。

治療費

入院しない場合は1回で2000円程度、合計で1~3万円程度の治療費がかかるでしょう。入院する場合はその病院によります。

2-2.鼓室内ステロイド注入療法

ステロイドの全身投与で効果がほとんど見られなかった方や、ステロイドの全身に対する副作用の危険性が高い人、年齢が高く難治性であることが予想される人などで行われます。

どんな治療を行うのか

鼓室イラスト

鼓膜に麻酔をかけ痛みをなくした後、鼓膜を小さく切り開きチューブを挿入します。そのチューブからステロイド液を注入します。これは治療開始から2~4回程度行います。

治療後、チューブを抜くと、鼓膜に空いた穴は1か月程度で自然に閉じることがわかっています。

 

 

効果の信頼性について

ステロイドの全身投与と同様に、有効性は未だ証明されていない現状にあります。3)

また、アメリカでの突発性難聴の治療ガイドラインによるとステロイドの全身投与と比較して、治療成績が劣っていると報告されており、あくまでステロイドの全身投与が行えない人や、治療効果が低かった人での代替療法としての側面が強いです。

ただし、ステロイドの全身投与との併用療法は、全身投与単独よりも聴力回復の面では勝っていたとする報告4)があります。このことに関しては議論が分かれるところでもありますので、担当の医師と相談のうえでどう治療するか決定するのが良いでしょう。

副作用と安全性について

鼓膜に穴をあけ、鼓室にチューブを挿入することは、手技としては中耳炎で頻繁に行われている手技であるため、確立されている安全な手法と言えるでしょう。

ただし、副作用として鼓室ステロイドにより鼓膜に空いた穴がふさがらないケースがまれにあります。その場合は改めて鼓膜を形成する必要があります。

治療費について

入院する場合は高くつきますが、通院の場合は1回2000~3000円程度で済みます。

2-3.高気圧酸素療法

高気圧酸素療法

高気圧の装置内(左写真)で100%の酸素を吸入して、全身に酸素をいきわたらせる治療法です。装置を保有している医療機関が少ないものの、一部で有効性が指摘されている治療法です。

 

 

効果の信頼性について

114例(64例が実験群)を解析した信頼性の高い研究5)によると、高気圧酸素療法を行った患者で大幅な聴力改善が見られたことが報告されています。(閾値25%では有意に改善、50%では改善傾向)

ただし、報告数が少なく、方法論的欠陥も見られるため、効果があるかについては慎重に議論すべきだと論文筆者は結論付けています。

また、症例は全て発症から14日以内であり、耳鳴りについては改善しなかったというところも重要なポイントです。

大幅な聴力回復も期待できるものの、信頼性はまだ低い治療法と言えるでしょう。

高気圧酸素療法を行っている病院の見つけ方

高気圧酸素療法を早い段階から受けたい場合は、施設を保有している病院で受診する必要があります。保有していない病院では、他院に紹介する前にステロイド治療から始め、改善が見られない場合に紹介する形になるためです。

(自分の住んでいる市) 高気圧酸素療法」で調べるのが良いでしょう。

副作用について

基本的には副作用や合併症の少ない治療法です。しかし、まれに

  • 気圧による肺、耳、鼻の外傷
  • 酸素中毒

などの副作用を引き起こすことがあります。

治療費について

治療費は多くの場合1000円~2000円/回程度です。ただし、診察費は別となります。

2-4.血液循環を改善する薬

突発性難聴は内耳の血液循環不全が病態であることが考えられているため、血液循環改善薬やATP製剤(代謝賦活剤)などを併用するケースがあります。

ただし、それらの薬で改善するかについては、まだはっきりとした研究がなされていません。メカニズムから考える有効な治療となります。そのため、ステロイドと併用する形での処方が多いです。

副作用

約4%の患者さんで、頭痛や嘔吐などがあります。重篤な副作用としてごくまれにショック様症状が現れることがありますので、副作用を感じたら即中止し、医師と相談しましょう。

2-5.ビタミンB12

ビタミンB12は神経系を正常に働かせる作用が知られており、内耳の循環不全により傷ついた神経を回復させることで突発性難聴を治療できるのではないかと考えられております。

この治療法に関しても、未だ研究としてはほとんど進んでいませんが、メカニズムから考えると有効な可能性もあるため、よくおこなわれている治療法です。

副作用について

ビタミン剤であり、基本的には安全です。ごくまれに下痢やかゆみ、アレルギーが出る方がいます。

2-6.抗ウイルス薬

突発性難聴の原因として、ウイルス性難聴が原因にあるのではないかという説に基づく治療法です。

しかし、今のところ突発性難聴と認められた患者さんでステロイドのみ、ステロイド+抗ウイルス薬の2群で比較検討した結果、有意な差は認められなかったということが4つの研究6)-9)で報告されています。このため、抗ウイルス薬が突発性難聴に有効とはいえません。

そのため、抗ウイルス薬のみでの治療はあまり推奨されていないのが現状です。

2-7.その他の治療法

これまで解説した治療法以外にも、いくつか報告されている治療法があります。

しかし、どれも実験人数があまりにも少ないため、これらだけで治療にあたるべきではないでしょう。あくまで上記の治療法のついで程度に併用するのもありかな、と思って読んでいただけると幸いです。

マグネシウムの経口摂取

28人の非常に少ない人数での実験10)において、ステロイド+マグネシウムの摂取により、すべての周波数で聴力が改善したことが報告されています。ただし、あまりにも人数が少ないため、信頼しすぎないのが良いでしょう。

亜鉛

66人の非常に少ない実験11)において、ステロイド+亜鉛の相乗効果で聴力の改善が報告されています。これも亜鉛と同様、信頼しすぎないのが良いでしょう。

漢方薬

漢方薬をもちいた突発性難聴の報告の全てで、試験に欠陥があったことが報告されています。漢方薬が突発性難聴を改善することもあるかもしれませんが、治療のメインに据えるのはやめておいた方が良いかもしれません。

その他の民間療法

鍼灸を初めとするそのほかの治療法・民間療法では改善したという報告は各治療院の報告以外では見当たりませんでした。そのため、まずはしっかりと医療機関で治療を受けることを強くお勧めします。

3.できることはすべてやっておきたい方のためのプラスポイント

突発性難聴は発症から2週間~1か月の治療が改善するかどうかの分かれ目だと考えられています。その期間でできることはすべてやりたい方は少なくないのではないでしょうか。

そのような方は

  • 生活習慣の改善
  • 主治医にやれることはすべてやりたいことを伝えること
  • 高気圧酸素療法を希望する場合は、早い段階から施設を保有している医療機関で受診する
  • 民間療法は行ってもよいが、あくまで補佐

の4つのポイントに気を付けると良いでしょう。

3-1.生活習慣の改善

突発性難聴が起こる場合にはストレスや疲労が関わっていることも多く、安静が非常に重要です。

また、喫煙や飲酒なども体へのストレス、循環不全の原因となるので、それらも避けた方が良いでしょう。ただし、それが精神的なストレスになることもありますので、「減らす」の意識から始めるのが良いかもしれません。

3-2.主治医に意見を伝え、しっかりと相談する

突発性難聴の場合、治療時期にもっとやれたのではないかと後悔される方が非常に多いです。

できることを全てやりたいと意見すれば医師は必ず力になってくれます。逆に相談せずに、自己判断での治療の組み合わせで、薬や治療の相互作用が起こってしまう方もいらっしゃいます。

必ず医師に意見を伝え、しっかり相談しましょう。あなたの健康状態、年齢、既往歴を加味したうえで希望を叶えられるかどうかも含め判断してくださいます。もし、万が一力になってくれない医師の場合は、別の病院でのセカンドオピニオンを受けると良いでしょう。

3-3.高気圧酸素療法を希望する場合は、病院選びが大切

高気圧酸素療法を希望する場合は、最初のうちから施設のある病院で受診するのが良いでしょう。

というのも、施設がない病院の医師の選択肢に、高気圧酸素療法はまず上がってこないからです。最もスタンダードなステロイドを用いた治療を行って、どうしても無理ならという判断になるでしょう。

反面、施設保有病院では、高気圧酸素療法を併用することが選択肢としてあります。実際に行うべきかは医師の判断の分かれるところではありますが、希望しリスク保有でなければ早い段階から高気圧酸素療法を受けることができるでしょう。

「(自分の住んでいる市) 高気圧酸素療法」で検索してみましょう。

3-4.民間療法の取り扱い

鍼灸や東洋医学も効果の可能性は否定できません。しかし、今のところ効果があったとする報告はほぼ皆無です。

  • メインではなく、補助の治療として用いること
  • 高額すぎる治療に騙されないこと
  • 民間療法も併用することを主治医に伝えること

これらのルールを満たして行うようにしましょう。

4.突発性難聴の治療期間をうまく過ごす方法と制度

4-1.特定疾患医療給付金

地方自治体によっては突発性難聴は難病指定となっており、治療にあたり給付金をもらえる場合があります。

自分の住んでいる県のホームページで特定疾患医療給付金を調べ、突発性難聴が含まれていないか確認しましょう。

4-2.補聴器

突発性難聴は感音難聴であり、初期の段階や、聴力低下が軽度な場合でのみ、補聴器により聞こえやすくなる可能性が考えられています

補聴器を利用してみることで聴力に関しては生活面でよくなるでしょう。

4-3.周りの人のサポート

突発性難聴は周りからは見えないため、難聴だと思われなかったり、辛さが理解してもらえない側面があります。

そのため、辛さを理解し、共感してくれる存在はとても重要です。精神的な負担もぐっと減ります。よほど信頼している相手には伝えておくのが良いでしょう。

5.まとめ

これまで突発性難聴の治療の方法やその有効性、信頼性、副作用など深くお話してまいりました。簡単にポイントをまとめます。

“突発性難聴の治療のポイント”

  • 突発性難聴は発症から早い時期が治療の勝負!できるだけ早めに病院で受診
  • 確実に効果がある治療法は見つかっていない!主治医と相談しつつ後悔のないように治療法を選ぼう
  • 最もスタンダードな治療法は、ステロイドの全身投与です。代替療法として鼓室ステロイド注入がある
  • 高気圧酸素療法は、高い効果が報告されているが、まだ研究段階でもある!希望する場合は早めに施設のある病院へ!
  • 抗ウイルス薬、漢方や東洋医学は効果があったとする報告が非常に少ない!メインではなく、補助的に併用するのが良い

この記事を読んで突発性難聴の治療法を一通り知り、後悔のないよう治療を選択していただけると幸いです。改善したよ!という報告を楽しみにしています。

参考文献

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